【特集】
有馬トモユキ ― 関係から生まれるデザイン
これまでも技術環境の変化はデザインとデザイナーのあり方に大きな影響を与えてきた。かつては専門知識や技術修練を必要としたアプリケーションは,高度な機能を備えながらもより直感的・感覚的に使えるように改良され,教育的出自を問わずだれもがあらゆるグラフィックを実現する状況を生み出している。
一方で,AI技術の是非をめぐる議論に代表されるように,急激にオートメーション化される先進的な技術は,人間の手からその仕事を奪うのではないかとの危惧も広まっている。みなが共通のアプリケーションを使用しその技術的支援を受けることで,結果として似たような出力ばかりが生み出されているのではないか。人間に技術をアジャストさせるのではなく,知らぬ間に人間が技術にアジャストさせられている。もしかしたらこの先にまっているのは,そうしたデザイン(デザイナー)・ディストピアなのかもしれない。
日本デザインセンター「有馬デザイン研究室」の有馬トモユキは,2000年前後からはじまったデジタルイノベーションにリアルタイムで併走してきた人物である。有馬はいわゆる美術大学でデザインの専門教育を受けてきたわけではない。コンピュータを通じてゲームとインターネットに触れ,ウェブで漫画・アニメカルチャーと出会い,音楽によってグラフィックデザインを知り,同人デザインに参加することで人と出会い,出会った人との関わりから自分の仕事の領域を拡張しつづけてきた。ウェブ,書籍,パッケージ,ブランディング,アニメーション,ゲーム,展覧会―技術と人とのかかわりのなかで探求をつづけ,あり合わせの道具としてアプリケーションを駆使してきた。
本特集では有馬トモユキのキャリアを総括する。有馬は技術と人との関係から生まれるデザインをつくりつづけてきた。みずからの職域を職能で規定するのではなく,求めに応じ,あるいは求められていなくとも自身の動機に基づき,プロジェクトごとに自分の仕事の範囲を定める。「ここまでがデザイン」なのではなく,「これもデザイン」であっていい。デザイナーとして,ではなく,デザインができる人間として力を尽くす。そのことがプロジェクトをともにする仲間を触発し,受発注の境界を曖昧にさせ,デザインスタイルを超えて,「有馬トモユキのデザイン」を成立させている。
有馬の仕事を振り返ることは,現代における技術とデザインの関係を問い直すとともに,デザインが「人間の仕事」であるために,そこにかならず介在する「人」という要素に目を向けることにもつながる。それは来るべき2030年代のデザイナーたちにとってひとつの指針を示すものになるはずだ。本特集がデザインを目指すすべての人の背中を後押しするものとなることを願う。
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企画・構成:長田年伸,アイデア編集部
デザイン:LABORATORIES(加藤賢策,鎌田紗栄,小泉桜)
撮影:Gottingham 翻訳:ブラザトン・ダンカン
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アイデア No.412(2026年1月号)特大号 | 株式会社誠文堂新光社 (seibundo-shinkosha.net)






