
【特集】
美しい書物を求めて ―中世ヨーロッパの写本とデザイン
写本とは,活版印刷が発明される前の時代に,手書きで文字を写した書物のことである。中世ヨーロッパの修道院には「スクリプトリウム」と呼ばれる写字室が設けられ,そこでは「写字生」たちが,羊や子牛などの動物の皮からつくられた紙(羊皮紙)に文字を書き写していた。
中世の写本といえば,世界で最も美しい本と称される『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』や,アイルランドの国宝『ケルズの書』など,豪華な金箔や色彩をふんだんに使用した装飾や,美しいカリグラフィーを特徴とする作品が知られている。これらの写本は,単なる宗教書にとどまらず,芸術的な価値を持つ作品としても高く評価されている。
ページのマージン設計やレイアウト,配色といった,読者の利便性を考慮した写本のデザイン面については,あまり光が当てられてこなかったが,文字の大きさや配色だけでなく,ときにはインフォグラフィックスを用いて視覚的な補助を通じて読者の理解を助けるなど,写本の制作に携わった写字生たちは,まさに現代のグラフィックデザイナーの先駆者ともいえるだろう。
本特集では,その写字生たちが手がけた書物の「デザイン」に焦点を当て,レイアウト・フォーマット,装丁,配色や書体といった視点から写本を分析することで,現代のグラフィックデザインとのつながりを探る。美しく文章を配置するためにガイドラインを設けたり,挿絵や装飾(彩飾)イニシャルを施すためのスペースを事前に確保し,後からその部分に装飾挿絵師が担当して入れるなどといった,現代のDTPやデザインに共通する工程や,いつの時代にも存在する「制約」のなか,わずかに残された「自由な空間」(ページの余白など)で写字生や装飾画家たちが発揮した遊び心など,人々の本づくりの工夫や情熱を探りながら,美しい書物とは何かを改めて考えたい。
企画・構成:アイデア編集部
協力:古賀稔章
デザイン:LABORATORIES(加藤賢策,鎌田紗栄)
フォント協力:De Aetna revival(リッカルド・オロッコ,ミケーレ・パターネ)
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アイデア No.409(2025年4月号)| 株式会社誠文堂新光社 (seibundo-shinkosha.net)