
【特集】
「こわい」をかたちにする ―恐れと不穏を視覚化するブックデザイン
「こわい」とは何か。それは恐怖,不安,嫌悪,驚き,あるいは不条理や理不尽といった感情の総体であり,ときに人の心を深く揺さぶる力をもつ。今号では,そうした「こわさ」の感覚がどのように視覚化され,本というメディアの表層,すなわち「装丁」や「表紙」に,いかに表現されているかを探る。
こわさを扱う各メディア―小説の表紙に見る画面構成,絵本における静かで異様な色彩,雑誌が切り取る時代性,そして漫画に滲む可笑しさと気味悪さが同居する違和感。そこに共通するのは,理性では処理しきれない「何か」に触れさせようとする,デザインの手つきだ。それは読者の想像力を引き出し,ときにページをめくる前から感情をざわつかせる。つまり,「こわい本」の視覚表現は,単なる装飾や販促ツールにとどまらず,内容と呼応しながら読者の情動に働きかけるメディア装置として機能しているのだ。
とりわけ現代において,「こわい」という感覚は,従来のホラー的な恐怖表現にとどまらず,より複雑で多層的な意味を帯びはじめている。例えば,不気味なものがもたらす不安,言語化できない不穏,あるいは社会的な違和や排除への恐れ。これらはかならずしも血や暴力に頼らずとも,「視覚的な演出」によって強く印象づけられる。むしろ近年では,「見えない怖さ」をいかに表現するかという点に,デザインの新たな挑戦があるのではないか。
本特集では,小説・絵本・漫画・雑誌という4つのジャンルを通して,「こわさ」のヴィジュアル表現に迫る。また,「こわさ」の表現者として活躍する,デザイナー・坂野公一(welle design),漫画家・伊藤潤二,ゲームクリエイター・Chilla’s Art,イラストレーター・fracoco諸氏へのインタビューも掲載。アンソロジスト・文芸評論家の東雅夫氏にも寄稿をお願いした。
本特集を通じて,「こわい」という感覚の多様さと,それが今,どのように造形されているのかを見つめ直したい。そして,視覚表現としての「こわさ」が,どのように深くわたしたちの感情や記憶と結びついているかを,あらためて問い直す機会になればと願っている。
企画・構成:アイデア編集部
デザイン:LABORATORIES(加藤賢策,鎌田紗栄,小泉桜)
撮影:青栁敏史
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アイデア No.410(2025年7月号)| 株式会社誠文堂新光社 (seibundo-shinkosha.net)